ここに一枚のMDがある。聴きすぎてラベルは黄ばんでいる。(MDって古いな。これで大体の自分の年齢はバレるというもの。)
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吹部のレパートリー
その古びたMDは他でもない、自分が吹部だったとき当時の地方大会で、運動部でいうその年のベスト4だった高校の録音だ。実際の校名は伏せて、曲目を並べてみよう。
・バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲(ラヴェル)より 夜明け、全員の踊り
・イタリア奇想曲(チャイコフスキー)
・吹奏楽のための神話ー天の岩戸の物語によるー(大栗裕)
自分はこの中のダフニスとクロエやった高校に翌年入った。結構勉強がんばらないと入れないとこだったが、部活やりたさにそれはもう必死でしたよ。バッハやった所も同じ県内だったが、学区制というのがありまして。
いざその部活に入ってみると新入生歓迎会は近所のお城に手作り弁当持って出かけるというラフな雰囲気(普段の練習もお城)、でも部室で基礎練と称してClaの先輩は熊蜂の飛行をやり始め、なぜか練習を一番サボる子が(金管で)ダントツ上手く、その子には皆どれだけ練習しても到底追いつけないという謎な世界だったが。
とにかく各校の演奏も素晴らしかったが選曲が秀逸。
ダフニスとクロエは当時流行ってたので順当な選択。
トッカータとフーガも難曲にして名曲、そして人気曲だった。
天の岩戸の物語は、邦人の偉大な作曲家大栗裕の代表作。
それからイタリア奇想曲。・・・・?
いわばこの頃つまり80年代以降、吹部の世界では管弦楽とかクラシックの編曲ものが主流を占めていたのだが、あまりイタリア奇想曲は頻回には演奏を聴かなかった。
しかしこれも名曲。なぜ身近で演奏をあまり聞かなかったのか、それは難曲すぎてレパートリーにできるところが中々無かったからかも。
技術的特徴
自分はこの年の4曲が好きすぎて、テープに録音して擦り切れるまで聴いていた。そのうちMDなるものが発売されるやいなや、(他の膨大なテープ録音も全部)MDに移し、これ以上擦り切れる心配がなくなったのでさらに延々と聴きこんだ。
その録音は高校生のコンクールでの演奏だったが、管弦楽版が元だと知り早速バイト代でオケ版のCDもゲットして聴きまくった。
このイタリア奇想曲について巷で名曲とのうわさを聞いたので、早速自分もどういう風に好きなのか書いてみます。
まず吹部的オタクな視点から行くと、全編ユニゾン(=同じ音)で動くところが難曲です。ユニゾンということは音程がずれていると一発でばれ、また非常に耳障りになってしまう。しかもユニゾンで高速パッセージときた。もう無理難題です。しかし音程がバシッと合っていると一体感というか雄大さが生まれる。
ただ管楽器で完璧に安定した音程というのは相当上達しないと合わせられない。よってこのユニゾンだらけの難曲は中々手が出せなかったのか、吹部が演奏してる所には余り出くわさなかった。なので当時地方大会のこの録音を聴き、衝撃だった。
ーここで突然参考演奏のリンクー
吹奏楽版:
1983年の録音、中学生にして超絶技巧:「イタリア奇想曲」より【出雲一中】 - YouTube
演奏会でのフルバージョン:中村学園女子高校吹奏楽部 イタリア奇想曲 - YouTube
ベルギー・ギィデ交響吹奏楽団:イタリア奇想曲 ITALIAN CAPRICCIO Op.45 / Piotr I .TCHAIKOVSKY (吹奏楽版) - YouTube
管弦楽版:
演奏会の様子が動画で上がってます: P.Tchaikovsky. Italian Capriccio - YouTube
カラヤン指揮。テンポ遅め:チャイコフスキー - イタリア奇想曲 Op.45 カラヤン ベルリンフィル - YouTube
自分的にイチオシ。弦楽器5部がいい仕事している。チャイコフスキー/イタリア奇想曲 - YouTube
南国的な明るさ
技術的なオタク話は横に置いといて、この曲の魅力はずばりこの一言でいえる。
※参考リンク:イタリア奇想曲 - Wikipedia
ネットで指摘されて気付きましたが、イントロからしてトランペットのファンファーレが爽快に響く。自分はユニゾンに気を取られていたが、そうだこのイントロかっこいいぞ。
暗く重苦しい、長く冬の景色に閉ざされるロシアからイタリアに旅立つ、晴れ晴れした様子。ていうか実際チャイコフスキーはイタリアへの旅から着想を得てこの曲を書いている。
途中憂いを含んだメロディを挟みつつ、陽気で軽快、心が弾む明るい旋律が楽器を変え、形を変えながら劇的に展開していく。途中の暗い旋律もそこはチャイコフスキーのこと、弦楽器によって抒情的に歌われる。
実際ロシアの冬は重くて暗く、長い。(←戦争と平和読んでて思ったイメージ)ロシアに限らず、日本人が想像するよりずっとヨーロッパの冬は寒くて厳しい気がする。緯度が高いのに暖流のおかげで温帯なだけだと思う。ロシア辺りになると緯度が高くて夏は白夜が続くくらいだ。その代り湿気がなくて快適な短い夏の季節をバカンスに利用して思う存分楽しむのだろうけど。
チャイコフスキーの生きていた19世紀までは(前後するかもだけど)シベリアは領地ではなく、バルト海に開けている港(サンクトペテルブルクとか)は冬は凍結して貿易には使い物にならない。その凍った海からは冬は船旅もできない。
そういう政治的意図とか色んな意味で、ヨーロッパ人というか東欧、北欧人には地中海沿岸の陽気、明るい太陽、強烈な日差しは憧れだったと思う。温かい南国、それ以上の意味で潜在的なあこがれというかもはや執着すら感じる。
だから、イタリア奇想曲を聴いてると、純粋に、雪に閉ざされた国からの明るい太陽への憧憬が浮かぶ。
ラテンアメリカ系の音楽の明るさとは構造的に違うけど。
※ほかの曲にみられる南国への憧れ
チャイコフスキーの別の曲に、イタリア奇想曲と曲調が酷似してるなあと思うのがある。バレエ音楽「白鳥の湖」からスペインの踊りがそれだ。
スペインの踊り「白鳥の湖」26/36 第3幕 ボルチェンコ/Spanish dance"Swan Lake"Act3 Borchenko & Lebedev - YouTube
この、ロシア宮廷を想定したと思われるバレエの舞台において踊られるフラメンコ風なダンス。やっぱり地中海沿岸にあこがれてるんだなチャイコフスキーは。って思う。
番外編動画:同じスペインの踊りだが、メインはタンバリンのおじさんに注目のこと。
白鳥の湖~スペインの踊り(スネアのおっさん) - YouTube
チャイコフスキーはメロディメーカー
というわけでチャイコフスキーはおそらく南国へあこがれていたと思われるが、この2曲を聴いてわかる通り、一度聴いたら覚えられてそして忘れないキャッチ―さがチャイコフスキーの売りである。稀代のメロディメーカーである。こんな人は自分は他には小室哲哉とけいちゃんさんくらいしか知らないが、それにしても圧倒的にメロディそのものに人を引き付ける魅力がある。
煩雑になるのでいちいちリンクは貼らない。
それから言わずと知れたチャイコフスキーコンクールで有名なピアノ協奏曲、バイオリン協奏曲。
忘れちゃいけない弦楽四重奏曲第1番ニ長調第二楽章:通称アンダンテ・カンタービレ。
あと序曲「1812年」。
片手で足りない。
誰が聴いていも知っている、時代を超えて愛される曲。キャッチコピー並みに親しみやすく、かついくら聞いても飽きない。
冒頭で言ったイタリア奇想曲も、これらのチャイコフスキーの作風を余すところなく伝えている。
(おまけ)
オーケストレーションならラヴェル
チャイコフスキーの作風がメロディメーカーなら、オケ曲を作曲・編曲するのに長けていたのはラヴェルをおいて他にはいない。
上にも書いたがチャイコフスキーはユニゾンが多い。言うなればシンプルにして抒情的。
それに対しオーケストレーションとしてなら誰を挙げるかといえばラヴェル。
ピアノソロ曲としてムソルグスキーが書いたものの埋もれていた「展覧会の絵」を編曲して管弦楽版にし、その曲の魅力を最大限生かして世に広く知らしめた功績は大きい。
他にもマ・メール・ロワ、道化師の朝の歌、スペイン狂詩曲、海、バレエ音楽「ダフニスとクロエ」、ラ・ヴァルス、そしてボレロ。
印象派の作曲家であるが、ドビュッシーもそうだけどラヴェルほど楽器ごとの特徴を使い分け、また作曲技法としても前衛的な創作を続けたのは特筆に値する。