都内は多摩川沿いにある、隠れ家のようなカフェ。
春爛漫の陽気のなか日当たりのよいテーブル席で談笑する男性二人組。
それは言わずと知れた秘密結社のボス(表の肩書は(株)G興業取締役)ことGさんと共同出資者のIさんだった。コーヒーを片手に何やら話し込み、書類やら申請書やらを手に額を突き合わせて細部のチェックに余念がない様子である。
そのドアの前に現れた怪しい人影。
(……よし、ここだな。)
ガチャッ!バタン!
自分はそのカフェの重々しい木の扉を勢いよく開けた。
カラン、とドアについた乾いたベルの音が鳴る。
穏やかな陽だまりでコーヒーを楽しむ時間に突如侵入者が現れ、眉をひそめる他の客。その場の不穏な空気にはお構いなしに、自分はまっすぐ男性二人組のテーブルにつかつかと詰め寄った。
びっくりしている二人組にも、お冷を持ってきた店員にも構わずに、自分は同じテーブルに座るとここぞとばかりに思いっきりまくしたてた。
コーヒーカップがその勢いで倒れそうになりながら。
ちょっと!
聞きましたよ!??
ござさんがピアノ辞めちゃうってほんとですか!!!
ピアノの色んなアレンジ一通り弾けるようになって飽きちゃったから辞めるって!!!
ウチみたいなストーカー紛いな粘着ファンのためになんとかモチベ維持してたって!
(↑↑被害妄想)
IさんもGさんも知ってたんですか!?
おふたりとも長い間お互い刺激を受けながらピアノ活動やって来たんじゃないんですか!!黙ってないで何か言ってくださいよ!
ピアノは苦しい時も寂しい時もそばにいてくれるんでしょ??
ピアノがどんなときも心の支えになってくれるのを誰よりもわかってるのはIさんでしょ!
なんで止めてくれなかったんですか!??
(唐突に流れるマッキーの歌声)※リンク: 槇原敬之 - どんなときも。 - YouTube
あまりにも唐突過ぎて顔を見合わせる二人組。
ハッと気づいたようにやっとGさんが口を開いた。
「あ、ああ……GZくんならその辺のT摩川の土手で桜でも見てるんじゃないかな……さっきまでここ居たんだけど、天気いいからってフラッと……」
お二人とも分かってるのに止めないんですね!!!
あれだけの腕を持ちながら、それが埋もれていくのを黙ってみてろって?
どういうことですか!!!
ちょっと自分はGZさんの気持ち聞いてきます!
GさんとIさんは分かってくれてると思ってたのに!!
もう世の中何も信じられなくなりました!
うわああああああん!
そして台風か何かのごとく騒がしい影は、疾風のようにテーブルから消えた。
後に残された男性二人組。
コーヒーカップを手にしたままポカーーーーンと口を開け、もう見えなくなったその影を見送るほかはない。
「どっどうすんの、あれ……?」
「まあ大丈夫じゃないですか、本人に話に行くって言ってるんだし……」
「そうだね、本人に聴けばアレがなんかの早とちりの勘違いだってわかるだろう」
「そんなはっきり言ってたんですか、生配信で……?」
「いやちょっと落ち着いて配信聴いてれば、わかることだよ。GZくんがほんとにやりたいのは何なのか。」
陽当たりのよい南側の窓際で、コーヒーの香りを楽しむかのようにカップを回してゆっくりと味わいながら、外の景色を眺めてGさんは静かにつぶやいた。
そうしておだやかな春の時間は静かに流れてゆく。
さて。
勢いでカフェから出てきたものの、T摩川の土手は広い。
あちゃー。どこだろ?
桜は右にも左にも一面に並木道が伸びていて、このわずかな期間を楽しもうと河川敷はたいそうな賑わいである。あちこちで家族連れのにぎやかな笑い声が響く。
(※参考画像です。撮影地はうどん県S市I野山のふもとです。)
まるで生き急いでいるかのような、生命力を持て余しているような……
むせ返らんばかりの満開の桜。
細い枝にこぼれんばかりの花が、今を盛りと咲き誇る。
その花吹雪が散り敷く中、GZさんはいた。
土手に腰かけて陽光に輝く川面を見ている。
その手には午後の紅茶。なんでやねん。さっきまでカフェに居たんちゃうんかい。
まあいい。ここで会ったが百年目、洗いざらい喋ってもらおうか。
【※以下、凡例】黒字--自分
緑緑の字--GZさん
ちょっといいですかGZさん!
自分の甲高い声にGZさんは驚いて振り向くも、「またあんたか、うるさいのが来たな……」みたいなウザそうな顔をして、プイと視線を元に戻す。
そんな態度は気にせず自分は機関銃のようにまくしたてた。
ねえなんでピアノ辞めちゃうんですか?
ござさんにとってピアノは言語なんでしょ?
話すより自由自在に表現できるんでしょ?
ピアノがないと2日と持たないんでしょ?
自分もござさんがピアノ弾いてくれてないと生きていけないんですけど!
人聞きが悪いな……
別にやめるなんて一言もいってませんよ。
僕は表現の仕方を色々な方法でやってみたいだけです。
その一つがピアノだっただけのことです。
鍵盤は一人で操作できますが、
それだけに自由度も拡張性も無限にあるツールですから。
いろいろできるなら、
いろいろやってみたいじゃないですか。
明るく晴れ渡る春の空の下。
ござさんの背後、遠くに多摩川にかかる南武線の大きな鉄橋が見える。
その上を、轟音を立てて貨物列車が通り過ぎていく。
みんな今やってることを出来るようになるまで極めると、次にやる事探しますよね?
ずっと同じことやっててもつまんないですよね?
え?
それが世の中に需要があって人気を得ててもですかって???
それをずっと続けることを人は「マンネリ化」と言うんですよ。
音楽を創造する側としては変化を止められることは即ち死を意味します。
鉄橋を揺るがす貨物列車の振動がかすかにあたりの空気を震わせ、桜の木から花びらが静かに落ちた。
次から次へとわいてくるものは止められないです。
考えることをやめると死んじゃうあたり、これに似てますよね。
これ?ああ、マグロですよ。
(※画像参照リンク:海の弾丸、マグロが高速で泳げる秘密とは | ナショナルジオグラフィック日本版サイト )
今は「向上心」を故意に押さえつけてるんです。
魂を売ったわけではけっしてありません。
演奏もあまり改善とかできなくなって違う方向性を打ち出せなくなったとしましょう。
そのはけ口として今はそのエネルギーは例えばグランドピアノ動画の画質や音質をどこまで上げられるか?って方に興味が行ってます。
しかし本当にいいんですか?
個人的に追求するとみなさんをぶっちぎって遥か彼方に置いてきぼりですよ?
需要を無視して、ほんとにいいんですか??
何やってもいいんですか?
いいんですね?
じゃあピアノ辞めてイラスト描くとか色々ありますよね。
え?イラストを描く方向へ、ですか??
ピアノの他の選択肢としてって事は職業として考えてるってことですよね?
え?職業としてのイラストってこれのことですか?
確定申告を勉強中です pic.twitter.com/x3VIjmPN65
— ござ 🎹@5月3日&30日ライブ (@gprza) 2020年10月6日
は???
なんか言いましたか?
これもさあ、イラストですよね?
え??これ職業にするの?
ござさん正気ですか?
いいからそれは置いといて。
ていうか、やりたいこと押さえてると噴火して爆発しちゃうかもしれませんよ?
つまり地球崩壊の危機です。マジヤバい。
(※画像引用:噴火 - Wikipedia より)
そのエネルギーは今の所世界史とかそれを基にした民族音楽を調べる方に行ってる。
地球崩壊はイヤです。
そんなのに巻き添えを食らいたくありません。
ていうか、え?
はい・・・・・・?
今までは需要をちょっとは気にされてたんですか?
どのへんがですか?
まあストピ動画のサムネを工夫されたり、テロップを派手にしたり、生配信でも視聴者のリクを拾う形でこの10年以上放送されてきたんですから、しかも仕事の合間に。ファンの期待に応えてくれてる、そのお気持ちは痛いほど存じ上げてますけど。
でも根本的に違いますよね。
あのね、需要を気にしてる人は、
・まず服とか髪形とか外見にこだわりますし、
・需要があるかな?って動画再生回数や登録者数を気にしますし、
・検索にヒットするように # にこだわりますし、………
何にしても「他者に評価されること」にしか行動の動機がありません。
ござさん、音楽活動のモチベは「他者に評価されること」に端を発してるんですか?
違いますよね?
言われてましたよね、”抑えきれない向上心に衝き動かされてる”って。
だったらさ、方向性は今までと何ら変わる所が無いじゃないですか?
ござさんはその向上心の進むところへ素直に向かっていけば良いのではないでしょうか。
専門性を追求すればファンのうち多数派の支持はどうやっても得られなくなります。
しかし活動の基軸を商業的ベースに置けば収入としては安定するのと引き換えに、ござさんの魂というか音楽性の命とでもいうべきものを失うんですよ。
ござさんは何を以ってござさんなのか?
コアな音楽理論のファンから、ストピ動画をたどってきた通りすがりの人まで、ござさんのファンは多種多様、千差万別と言っていいと思う。
でもそれらの人が何を聞きたくて集まってるのか?
音楽の表現は人それぞれ、
ピアノの音は演奏者の数だけ違う表現がある。
理論が分かってるかどうかに関わらず、ファンに共通するのはござさんの音が好きだからじゃないんですか。
音楽家たるもの、個性をなくすのは死に値します。
誰がどこを切り取っても同じような、金太郎あめみたいな演奏聞きたいと思います?
そんなどこ行っても聞けるような音楽を聞きに集まってるわけじゃありませんよ。
大衆的文化というのは幅広く認知されてますが、広く浅く表現するゆえに一瞬で飽きられます。その世界では機関銃のように絶え間なく発信しないといけませんし、そうやって表現者はその過重労働と発想の搾取に耐えきれずに疲弊していくのです。
そういうござさん、見たくないです。
また、クラシックピアノの世界はござさんのおっしゃる通り、突き詰めれば予定調和の世界です。バロック絵画を見て安定した完成された芸術を見ている感じ。忠実に原曲を再現するのが使命であり、楽器としてのピアノを追求しなければならない。そこで求められるのは膨大な練習時間というのはその通りです。
需要はあったとしてもござさんのピアノが最も輝くのはそういう舞台ではない。
ニコ動やYoutubeから発信されるネットピアニストは、そういった音楽界に一石を投じる存在だったはずです。
ござさんのピアノはネットピアノ活動の嚆矢として、従来の世間の目を気にせず固定概念も置き去りにして新しい価値観を追求していたんじゃなかったんですか?
その新しさゆえに、ファンも従来の常識から一線を画した試みとしてござさんの音楽理論に刺激を受けてたと思うんですけど。
ギリギリのところを攻めてこそのござさんアレンジですよね。
ござさんの存在意義は、もっと別のベクトルから発される音、もっと思いもよらぬところから投げられる変化球です。
誰を対象に発信するのか?
専門的な音楽理論を聞きたい人か、
Youtuberとしての演奏を聞きたい人か。
結論からいえばそこは問題じゃありません。
発信される音楽をどう捉えるかは聞き手が感じ取ることで、発信者側からそれを選択も操作もできないでしょ。
人の感情ってコントロールされる性質のものではないんですよ。
音楽理論が分かる専門家のファンは、よりござさんの世界を味わい深く鑑賞することができるだけで、楽しむスタイルに差があるわけでもなんでもありません。
何もわからなくてもござさんの深遠な音楽の世界に触れることができる。言葉で語ってくれなくても肌で感じることができる。音楽を理解するのに言語も国境も関係ありませんし。それこそが私たちファンの特権であり、ござさんのもとに集まっている唯一の理由です。
好奇心を押さえつけるなんていう寂しくなることは言わないで、ござさんは思うままにご自分の世界を追求して下さってるだけでいいと思うんです。
その活動が充実していればいるほど、どんなファンであれ勝手についてくるものです。
ちなみに自分の職場は病院だけど、お医者さんの中には医局人事で関連病院を異動して回る中、大学病院の研究室へ戻っていく人がいます。なぜ?そういう組織の中で地位とか肩書きを目指すのかというとそうではなく、
「(自分の診療科を専門的に)もっと研究したいから」
だそうです。医師という時点で修士課程は終わってるはずだけど、さらに掘り下げてもっと学びたいということらしいです。
もっと深くつきつめたい。
ござさんの方向性もつまるところはここに行きつくのでは?
生き方というか、研究対象へ取る姿勢に、双方似たようなものを感じるのは自分だけでしょうか?
………なんでここ来たんでしたっけ。
そうだった、ござさんにピアノをやめてほしくない一心で探し出したんでした。でも、その心配はなくなったと思っていいですか?
ござさんが世界史調べたり民族音楽研究されたりしてたので、そういう色々な経験は回り道に見えますけど精神世界にというか人生に厚みを与えると思います。やって無駄な事って世の中には存在しませんので。
研究に興味がおありなら、ござさんの興味ある専門分野が学べる何らかの教育機関へ今からでもお入りになられてはいかがですか。そういうところで別の顔を身につけられたござさんも、ファンとしては非常に興味あるんですけど。
向上心に蓋をして押さえつけてるより、はるかにそっちの方が健全な選択だと思いますがね。
じゃあ、桜ももう散りそうだし、あとわずかなお花見の季節、楽しんでください。
静かに見物なさってる所に乱入してすいませんでした。
そう言って自分は家族連れでにぎわう桜並木の土手を降り、多摩川河畔を後にした。
あの妙な焦燥感は、もう感じない。
土手の上では風が通るたびにヨメイヨシノの薄桃色の花びらが舞い落ちてくる。
ござさんは何も言わず、元通りに多摩川の静かな流れに視線を投げていた。
【おまけコーナー 1 単なるぼやき】
ピアノ、簡単・・・・?
コードもほ~ら3つか4つ抑えるだけの簡単なこと……?
いやいやいや。
それだけは口が裂けてもそんな事軽々しく口にしないでもらえますか。
ござさんの発する言語はまさしく外国語か宇宙人語、一般民にはそのアグレッシブな発想がどこから出てくるのかさっぱり分かりませんけど、そのコード論とかいうのも一般市民には宇宙人語なんですよ。
分かる人同士で暗号の会話をなさるのはプロ意識が垣間見えて大いに頼もしく思ってますが、一般市民に同意を求めないで下さい。
学校の授業でも音楽の時間でも部活でも、ちっとも習わなかったそのコードとかいう理論。
基礎の基礎の基礎から理解するのにも血を吐くような思いでやっと調べ倒し、なんとか界隈の謎の暗号を解読してる一般市民から言わせてもらいますけど。
コードを理解・習得するのもある程度の知識とそれを身につける膨大な時間が必要。
更にそれを使いこなすには音楽的センスが必要不可欠。
マニュアル本は世に多々売りに出されてますし、調べれば一般市民にも手の届かない世界では決してありませんが、簡単とか言う表現には同意いたしかねます。
ござさんには脊髄反射でどうにでも操作できるツールかもしれませんが「簡単」とかいうワードではなく「頑張って身につければもっと音楽は楽しめます」とかいう、一歩背中を押してくれる発言だったら嬉しかったかもしれない。
あ、文句言うつもりは0.000000000001ミリもありません。あいかわらずのござさんの飄々としたところが、らしいなあーと思ってほっこりして見てただけです。
【おまけコーナー2 過去の回想】
え?そんな配信でやらかしとか、回線トラブルとか、やった事ない………?
ん………?
ソーラン節はいうに及ばず。
ほほう?なんかこんな事もありましたよね……?
本日回線が不安定なため、配信終了とさせて頂きました。不完全燃焼なので家帰ってから(0時前後くらい)ツイキャスで配信します。くやしい…!!!
— ござ 🎹@5月3日&30日ライブ (@gprza) 2021年9月23日
あと、BGMが聞こえるとコードを聴き分けること?に意識が行って、IQ3になるござさん。今回も大きな古時計が視聴者にのみ流されていて、聴いてる方は穏やかな雰囲気で話が聴けて、かつござさんは無音状態だから集中できたようだ。
過去にBGMをその場で作ろうとした時にどうなったかという顛末を貼っておく。
知ってる人は知ってるでしょうから読まなくていいです。
それは2020年9月4日の生配信。(現在はメンバーシップのラーメンプラン限定動画)
ネピサマの伝説のソーラン節配信からのリベンジを無事果たし、振り返り雑談とスパチャ読みの配信をされた時の事。
BGM流しながらにしましょうかと言いつつ、BGM曲のコード進行に意識を取られて話ができなくなるというござさん。なんでもコンビニに入ってもBGMを分析してしまって何を買いに入ったのか忘れるほどらしい。
そこで名案を思い付いた!といいながらパートごとに録音を始め、一人セッションで曲を作って
「ばっちり、さあできた!BGM流すぞ!」
と演奏をかけてスパチャ読みを再開するも、その曲のコード進行を追ってしまってスパチャ読みにならないの巻。
「ダメだ!トークが進まない!」
何やってるんですか。
※大きな古時計の参考動画:この動画の中間部
tomorrow(アニー/from Annie)/大きな古時計(My Grandfather's Clock)/どんなときも ピアノアレンジ詰め合わせ - YouTube