ござさんの魅力を語る部屋

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映画「BLUE GIANT」の感想

 

★★ここは、いつもはYoutubeのピアノチャンネルの感想を書いてるサイトです。

★★今回番外編的に映画の感想書きます。

 

この記事は映画「BLUE GIANT」の感想です。

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映画『BLUE GIANT』公式サイト

 

 

この物語の主な登場人物は18歳の3人組。

 

18歳。

 

もう無邪気にはしゃいでいた中学生のような子供でもなく、

高いところから醒めた目で眺め、分別ある振りをして下の世代を諭す大人でもない。

 

まだあどけなさが残る相貌

その視界には夢しか見えてない。

夢への行き方は知らないけどきっとたどり着けると信じている。

後ろを振り返ることなんか思いもしない。

 

青春を描いた映画?

かつての過去の時代を表すようなことばで一括りにしたくない。

 

青春って誰にでもあった時期?

この3人のように何かに真摯に打ち込んで、悩んでもがきながらも必死に向き合ってる…

人は誰もがそういう気持ちになれるものを心の中に持っているのではないか?

 

 

 

目次:クリックで各項目へ飛べます

 

 

 

夜明けの空が白む直前の空の色のような……

これから光が差すことを予感させるような美しい空の色、

ブルー。

その意匠がこの映画には随所にほどこされている。

 

まだ何物にも染まらない若者を象徴するような澄んだ青。

そしてJAZZの独特の表情を印象付けるblue note。

ブルー・ノート・スケールはジャズやブルースなどで使用される音階である。
メジャー・スケール(長音階)に、その第3音、第5音、第7音を半音下げた音を加えて用いるものである。また、特に♭3,♭5,♭7の音をブルー・ノートと呼ぶ。近代対斜の一種でもある。
(引用:ブルー・ノート・スケール - Wikipedia )

物語のキーを握るシーンでは、blueが効果的にスクリーンの色彩に顕れる。

その独特の演出にはっと息をのむ。

 

 

葛藤

自分がこの映画のことを知ったのはTwitterで、だった。

音楽歴は吹奏楽部でクラリネットをかじり、もっと小さいころにピアノを一瞬習い……

吹部でJAZZの存在は知ったものの当時は管弦楽曲から吹奏楽へのアレンジ全盛期、JAZZは難しそうだと思って素通りした。

要するに、食わず嫌い。

 

そんな中JAZZを知ったきっかけは、Youtubeでいつも聴いているピアノチャンネルの生配信でのJAZZアレンジだった。カルチャーショックだったというか、自分が馴染んでたクラシックとか吹奏楽、J-POPとは全く違う音楽。

自分がYoutubeで聴いてるピアノ配信者さんはござさんという。

公式チャンネル:ござ / Goza's Piano Channel - YouTube
公式サイト:ござ オフィシャルサイト

そもそもこのブログを開設したのはこのチャンネルのレビューのためだけである(今回の映画感想は番外編)。ピアノ配信で弾いてくれるからという理由で、今まで避けてきたJAZZをなぜか必死で調べて聴き込んだ。もっとくわしく知りたい一心で。「特ににアドリブが聴かせ所です」と言われよくわからないまま論理をまず手探りで調べた。

しかし結局、JAZZに詳しくなれたのか?JAZZって何かわかったのか?というと、分からない。

まず導入部で雰囲気づくり、

そしてテーマが提示されて展開し、

さらに各奏者によるソロ=アドリブゾーンでどうやらここがJAZZの聴き所らしい。

そういう繰り返しで構成される音楽。

発祥はアフリカ音楽、それから奴隷貿易を経てアメリカで発達して、その後の色々な音楽ジャンルに影響を与える……

中南米ではアフリカ音楽はラテン音楽として独自の発展を遂げる……

 

そういう知識はなんとなくわかった。しかしじゃあJAZZってなんなのって言われても全く説明できないまま。手探りでもがきながら知りたいと思いつつ、何も正体がわからない音楽、JAZZ。

 

そこで「音が聞こえる漫画」として有名らしい原作から作られたアニメ、ストーリーも原作知らなくても楽しめて、さらにJAZZライブのシーンが圧倒的に素晴らしい、と聞いて、自分の悩みを解決できるきっかけになるかも、と思ってみたのもある。

映画にでかけたのはそんなちょっとした動機だった。

 

 

価値観の逆転(ネタバレ注意)

ここから映画の感想に入る。

 

結論、映画を見て得た印象からいうと。

JAZZって何なのか。(物語中のセリフはネタバレになるので)

言い換えれば……

魂を燃やす音楽。

 

リズム、コード進行、編成等……JAZZには多くの暗黙の了解にも似たルールがある。教則本というよりはセッションの歴史、その現場から生み出され受け継がれてきたルール。

でもそういう知識や経験はあくまで後付けだ。

奏者はもちろん上記のルールを熟知していることが前提になってくるけど、

JAZZを鑑賞するにおいては先入観とか知識とかいらない。

考えるより感じろ。

そう言われているように感じた。

 

 

 

ーーーーーネタバレ注意ーーーーー

 ↓↓↓

以下、ネタバレ要素を含みます

 

 

 

 

まず主人公は仙台出身らしい。

しんしんと降り積もる大粒の雪の描写から入るイントロシーンのカット。

この極寒と思われる夜に河川敷で練習。立って吹いてる?楽譜がない?アドリブ??

このアウトローな感じが今思えば既に熱い。練習室や師匠のもとで、暖房の中で楽譜を前にやってるんじゃないんだ???とそこから自分は頭を切り替えなければならなかった。

雪が降らない地方住みの自分には想像もつかない。冬の夜の雪の中でしかも冷たい金属のサックスを吹く。苦行以外の何物でもないじゃないか。絶対、指かじかんで動かないに違いない。しもやけ、いやいや凍傷になるぞ。

……しかし理性で考えていたのはこのイントロ部分までだった。そう、登場人物は18歳。先入観とか常識とかを捨てろって事かと思ってスイッチを切り替えた。

 

 

常識を外して映画を見てみるとーーー

 

絵と台詞はアニメと漫画原作に共通してる点もあると思うけど、原作読んでないので映画観た印象を書く。

 

まず絵がアニメ絵じゃない。陰影のつけ方がいつものアニメ絵とは違う。

リアル。(これは連載されてるのがビッグコミックていうところから来てる作風かも)

 

第一に、楽器の描写がすごい

(サックスが主人公の楽器なのだけど写真みたい。と、そこまでは写実的の域を出ない。楽器ケースが何気にセルマー?かなあ?、そこにステッカー(地元の神社?)貼ってるのも、リアル。)

日常の物理的な楽器描写はあくまでリアル。

それはそれで芸術の域だ。そもそもサックスをアニメで表現しようというのがまず正気とは思えない。アニメって1秒に24枚の原画が必要なんですよね、それをいちいちあの線の多い絵で描くって?背景扱いなら美術ボードで背景用として置いておけばいいでしょうけどキャラと一緒に動いてるんですよ演奏シーンで楽器は。

そんな苦難の作画工程を微塵も感じさせない、本物を超えて生き物のように輝き躍動するテナーサックス。複雑なキー、微妙なカーブを描くベル、背景が映りこむ輝くラッカー仕上げ。徹底的にこだわり抜いてて、角度によって陰影が細やかに変わっていくキーの描写までつややかで美しい。

なぜかその至高のカラー彩色をパンフレットにはほぼ載せてない。劇場でスクリーンでお楽しみくださいってことか。

 

ピアノの鍵盤は本体から離れてライブではピアニストの指と一緒に画面を飛び出してきそう。軽やかかつ理性的なベースライン、激情にまかせたアドリブの多重音の連打。

スクリーンを通していつしか音の渦に巻き込まれていく。

ドラムも圧巻のライブ描写。特に最後のライブシーン。ここで自分が乏しい語彙力を操っても無意味、百聞は一見に如かず。実際のアニメの表現でご堪能いただきたい。

つくづく、アニメとは思えない。

 

というか、ドラムはストーリー上初心者が挑戦するキャラになっていたので自分は親近感を覚えた。

そしてピアニストのセリフには反感を覚えた。

世の中全て才能・・・?

え?努力は実を結ばないの?主人公は河川敷で練習を積んで上達したんじゃないの?そういうストーリーじゃないの?

それへの答えはこの映画のストーリーの核であり、場面が進むにつれて分かってくることだったが、ドラマーの彼の演奏の変化を視聴者は一緒に楽しむことができるのもこの映画のみどころ。

 

作画上、演奏場面のモーションキャプチャーの動きと音楽の合わせ方には各種議論があるようだが、注目すべき論点はそこじゃない。

JAZZは頭で考えるのではなく、感じるんでしょ?

そのとおり、洪水のような音に乗って巻き起こる旋風のようなスクリーンからの衝撃。ただ身を任せて本能が感じればいいんだと思います。

そこに理性はいらないです。

技術がなければ音楽は奏でられないし論じられませんが、理性に陥っても音楽の本質を見誤ると思います。

JAZZを聴くのであれば。

 

 

独特な人物描写

登場人物の表情とキャラ、セリフ、顔の皺一本に至るまで実際に現実に存在してそうな描写。

この点がいつものアニメ絵と違う。

JAZZ音楽が表す人生の喜怒哀楽、世の中の諸行無常の理をすべて包み込むような懐の深い音、表面に見えることが全てではないとでもいうような複雑なコード……

登場人物はそれぞれの背景に人生のドラマを背負ってきた、それは彼らの表情に滲み出ている。

 

人物のカラーは青みを帯びたシックでクールな色調。

輪郭はぼうっと薄い青に光っていて、そういう彩色はアニメでは見たこと無い。テーマカラーがブルーだからそこに統一したのだろう。音だけじゃなくて視覚的にもトータルでブルーなんだ。

また、コマ割り?コンテ?のカットの角度っていうか、そういう視点でそのシーンを切り取るんだっていうのがいちいち斬新。それも普通のアニメじゃこういうシーン無いよねっていう場面の連続。そこも常識はずれでJAZZぽい。自由な感じ。

 

一番特徴的なのは音の描写

最初に、主人公のサックスとピアノがバーでセッションする場面。

音の波動が蒼いナイフのように鈍く光ってバーのマダムの表情に一瞬だけ鋭く差し込む。

また、JAZZクラブ So Blueで、客席?のウイスキーグラスの氷に奏者の姿が反映されている驚異の表現力…もう唖然ていうか脱帽というか……

その場面を含むライブシーンは重ね重ね言うけど、驚異とか脅威とかそれどころじゃなくて巻き込まれていく。

体液が沸騰するか?という危うさ、身の危険を感じさせる凄さ、というか怖さ。

音楽を感じる漫画だったってこういうことか?

それをアニメにして動かすとこうなるのか?

という衝撃の現場。

そう、映像、音響というより、まさに音楽が生まれる現場そのもの。

ぜひご自分の目でご体験なさってください。

文字で表せられるのはこれが限界。

 

劇中音楽のサントラも、細やかなシーンで心の機微を表現し、しみじみと何か感じさせる趣を持っている。

また、セリフがいちいち刺さる。

 

JAZZ音楽って何だろう。

主人公の一本気な性格、音楽に向けられた一途な情熱。それがまさにJAZZを体現しているのかもしれないな、と思った。設定が3人とも18歳だから若い勢いで、というのではないだろう。登場する大人たちには、大人の世界なりの打算や、常識に囚われた思考が垣間見えるが、でも映画のテーマはそこには重きを置いていない。

あくまで音楽とは、JAZZとは、という点に焦点が当てられている。

 

なんでJAZZなんだ?

主人公の言葉を借りれば「すげー熱くて、激しいから」。

 

自分の印象もそれに重なった。

聴いてて魂が燃える、そこがJAZZの本質なのかもしれない。

奏者ごとの情熱が一番あふれ出てくるアドリブソロの描写に全てが込められている。

 

人の声に最も近いと言われるサックスの音、

その現実世界に存在する観念を通り越して激情のままに歌うテナーの渋い音。

観客はホールで聴いているみたいにステージパフォーマンスに没入し一体となって体で音を感じるのみ。

 

物語の中で主人公たちは表現の方向で衝突する。

JAZZには決められたコード展開があり使用される和音にはルールがある。その縛りの中で自由にやるのがJAZZ。

評価される音楽、勝てる演奏。それでいいじゃないか?必要とされているのだから。

でもそれってJAZZなのか?

護りに入った演奏なんて意味あるのか?

時にはそのレールから外れて自分そのものをさらけ出すのがJAZZだろ?

それぞれに自問自答し、気持ちをぶつけあうストレートな展開もまたJAZZだなあと思う。全て音楽に対する姿勢が何もかも熱い。

 

 

個人的見解

人生、自分は折り返し地点を過ぎたところ。自分の中で趣味でも現実世界でも冒険しなくなったと感じる今日この頃。

ピアノのYoutube配信を見るようになり、このブログ部屋を開設したことは挑戦だったとしても。

 

そこに冷水いや煮えたぎる熱湯に放り込まれたような衝撃だった。

忘れていたこと、いつも新しい何かを求める気持ちを思い出した。変化することを忘れたとき人間は後退を始めるのかもしれない。常に未知の領域に一歩踏み出す気概を持って居よう、と改めて思った。

 

登場人物の音楽に対する真摯な姿勢に、涙が滂沱と流れた。

最初から最後まで泣いていた。

台詞の一つ一つが刺さる。

できれば一人で見て声を上げて泣きたかった。

 

映画観て泣いたのも、アニメ見て泣いたのも、もう一回見に行きたいと思ったのも、感想書かなきゃと思ったのも初めて、あまりの衝撃に何か書かずにはいられない……

 

いつも聞いてるYoutubeのピアノ、ござさんのチャンネルを初めて知った時は心臓を刺された気がした。

この映画を見た気持ちは…ハンマーで殴られた…違うな(物騒だなあ)。

魂が入れ換えられた感じ…

まさに、考えるより感じろというか、いくら調べてもどうしても肉薄できなかったJAZZという存在にやっと気づいたというか。

 

ラストのカットまで斬新。目を離すなってことか。ボルテージの限界を振り切っている。

相対的にエンドロールのハイハットが心地よく、やけどしそうな感性を穏やかに諭してくれる。

そしてさらにラストにもワンシーンあるので見逃せない。

 

公開最終日にどうしてももう一回見に行きたいなあ。