人は一つの所に留まることはできない。
宿命的に変化を求め続けるものなのだ。
明日が今日と同じだと誰が言い切ることができるだろう。
まるで24時間眠らない都市のように。インターネットは世界中と繋がりながら成長と変化を遂げていく。
その様はあたかも生き馬の目を抜くような峻烈さ。
一瞬で変わる激しい潮流、その潮の流れを詠みネットの大海原の中を舵を切り航海していく船。
目的を誤って方向を見失わないように、波に呑まれないように。
舵を切る人の背中は大きく、船は大洋の中もまれながらも微動だにせずに、帆に追い風を受けて進んでいく……
(※画像引用:ダウ船 - Wikipedia )
ねぴふぁびのコンサートが終わって間もないころ。
とある平日の夕暮れ。
年末からの諸々が落ち着いたのでちょっとお休みを頂きます。何も決めてないけど何かしよう。
— ござ 🎹 (@gprza) 2023年1月23日
"寒波襲来と共に、明日は関東地方平野部に積雪が見込まれ…厳重な注意を……"とニュースではアナウンサーが繰り返す。
そんな寒風吹きすさぶ中、都内の街角を歩く人影がひとつ。
ゆく河の流れは絶ずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と栖と、またかくのごとし。
マスクの中で小さく誦じながら……
「なんか意味違うか?」
GZさんは繁華街のビル街を遠くに眺めながら、裏通りのネオンの中を足早に歩いていく。そして、看板に小さくゴシック体で「(㈱)G興業」と掲げられている雑居ビルの脇を地下に降りると、奥まった所にある扉を叩いた。
デスクに並んだ作業中の楽譜。黒革のソファに掛けた2人の人物が入り口を振り向く。
J・Gさん、つまり表向きはG興業の取締役にして正体は秘密結社のアジトのボス。
向かい側には、これも表向きはG興業の専務て事になっているIさんが陣取っていた。
「明けましておめでとうございまーす!!」
「何を言ってるんだGZくんwwwwお疲れ様の間違いでしょwww」
「そうですけど、あれは仕事でしたからね!今日がほんとの僕のお正月です」
そうやって挨拶を交わすとGZさんは大きな縦長の箱をテーブルに置いた。
「これは遅めのお年賀です、とっておきの八海山。みんなで空けましょうよ!」
「いいけどさあ、GZくんはそれコップ1杯までだねー」
「うまい酒はみんなで飲むからうまいんですよ。僕はいつも大関ワンカップが相棒ですし」
「日本酒かー・・・」
「あれ、Iさんお疲れなんですか?なんかやつれてますけど?お酒やめときます?」
「いや僕は飲みますよ!うまい酒、ここで会ったが百年目!」
「(何言ってるんだIさんwww)寒い時は酒であったまるに限りますよね~」
「ていうかさー君ら年末に楽しくカラオケ行ってたじゃん?僕も行きたかったなー」
「何言ってんですかJ・Gさんはそれどころじゃなかったでしょ、次の日本番だったし」
「マジレスするとJ・Gさん来るとサザン縛りになっちゃうから…」
「そんなことないよ、僕の幅広いレパートリーから名曲厳選して差し上げるのに」
「いやいや!ネタ系は間に合ってます!GZくんでもうお腹いっぱいなんで!」
「だれがネタですか、僕はいつ何時たりとも真面目です」
「寒いっていえば、GZくん最近ストピで見ないね?」
「実際、寒いじゃないですか」
「そうだけどねーモールの中とかあったかいところのストピもいっぱいあるよ」
「最近スタジオでガチ撮りがマイブームなんで。去年からイケてるスタジオでやってるんで。あそこ電車も横通るしおもしろいですよね」
「まあねーストリートピアノは一種のブームみたいなもんだったからなー。」
「ストピも面白いですけどねシチュエーションもバラエティに富んでて」
「ストピで撮ると動画編集が尋常じゃなく大変ですし。音響の調整にめっちゃ時間かかるじゃないですか。そんな時間あったら練習したいんですけど僕。」
「それにストピは通りすがりの人との偶然の出会いみたいなのあって面白いけど、Youtubeに投稿すれば誰でも見てくれるから別にストピじゃなくてもいいのかもなー」
「練習ね……GZくんは結局そこに落ち着くよね……」
「まあどうせそうだろうと思ってたけどね……」
「それに今年は色々なところで弾くからね、どうせGZくんは自分の部屋以外で弾く機会は増えることだしね」
「とにかく温かくなったらの話です。」
「ところでJ・Gさん、なんかおつまみ無いですか?貝ヒモとか」
「あのねえ…ここに来たからにはもうちょいマシなものを肴に飲もうよ」
「わーいJ・Gさんの手料理だー♬♪下手にレストラン行くより美味しいよねー!」
「何言ってんのIさん、手伝うんだよ僕の料理を」
「えぇ……なにげに一番やつれてんのは僕なんですが……」
「今日はさ、GZくんの今年の活動にむけてのはなむけの会も兼ねてるんだからさ、Iさんここはひとつがんばってよ」
(首根っこをつかまれてキッチンへ引きずられていく音……)
外は氷点下の冷え込みを見せる中、地下のアジトでは宴会は終わりそうもなく夜は更けていくのだったーーー
桜のニュースを小耳にはさんだが、それはまた別稿で述べる。
ここでは桜の儚いイメージにだけ触れておく。
桜花 また立ちならぶ物ぞなき
誰まがへけん 峰のしら雲
(藤原定家)
《満開の桜、その絢爛たる美しさに比肩するものなど何もない。》
姸を競うように梢の花房は匂い、咲き急いで散る。
散り際こそが桜のみどころであり最も美しい瞬間という、日本人独特の美意識は古来から受け継がれた価値観だ。
桜は散るからこそ一瞬の間の華やかさがより美しく感じられる。
しかしござさんに関しては散るという意味には、去るとか儚いというよりも……
ずっと咲いていると花は色褪せていく。
同じ花を観賞するのではなくひとたび咲くと各々に散り、また次の年まで冬を超えて、つぼみを膨らませて花開くさまが思い浮かぶ。そうして年輪を重ねて少しづつ老成していく山深いところのヤマザクラの木というイメージがある。
(画像引用:ヤマザクラ - Wikipedia )
若さを生き急ぐような春の氾濫というには当たらない。
変わらないコミュニティ、変わらない方針というものにはいつか凋落するという運命がついて回る。
ござさんが生配信を欠かさないのは、本番前でさえほぼ定期的にされているのは、常に変化していくためのバックグラウンドを盤石にするため、だと思う。
自分の引き出しが確固たるものがあるから、そこからどうやってでも引き出せる。
どんな仕事がきても即対応できるのはそれがあるからこそ。
その引き出しをどれだけ正確に整理できているのかというと、
(2/12の生配信から引用)
曰く「ボサノバには4拍子の曲なら大抵対応できる。」
曰く「民謡や童謡はやりがいがある」(昨年から調べられていた民族音楽の一環という扱いされてるのかもしれない)
(1/28の生配信から引用)
曰く「(アニソンで)どうやってメドレー弾いてるのか?曲を弾きながら次のやつを考えるでしょ、つながりを探しながら。例えば魔法少女ものを弾き、そこからリズムがシャッフル系(?)で似てるっていう繋がりから映画エヴァンゲリオンの曲を…」
自分のレパートリーがはっきりしてるからこういうことができるのである。(ほんと人間業じゃないな)アレンジの引き出しもはっきり分かってるからこういう自然なアレンジもできるんだと思う。
生配信はそういうメンテナンスの場であり、自分らファンはその作業を毎回見に行く人たちなのだ。
流行りの曲を逐一弾きます、とか今人気のジャンルを弾くいう配信ではない。そういう配信をすれば視聴者は増えるかもしれないが、それではござさんのレパートリーの精彩は失われて在庫から消えたまま戻ってはこないだろう。
何を以て変化とするか。
その拠り所は人によって様々だ。
ござさんの活動は音楽の即興アレンジを軸にマトリックスを展開する。
研究、作編曲、演奏、セッションという複数の座標を足場に据えて。
それぞれの座標は同時に動いていき、切り口に見えるのは多次元の世界。
ござさんはあっと驚くカードは切らない。
多次元世界では、一枚のカードというモノカルチャーは変容をもたらさないから。
ファンとして、あるがままのござさんを推したい。
推しに期待したり失望したりするのは、所詮自分の願望を反映させているからにすぎない。
そうではなくござさんが自ら選んだ道を歩んでいく、その道をささやかながら照らしていたいと思う。道標はいらない。ござさんはゆくべき道筋をご存じだろうから。
如月ーー桜に雉
かざしをる道行人のたもとまで
桜に匂うきさらぎの空
かり人のかすみにたどる春の日を
つまどふ雉のこゑにたつらん
《藤原定家 詠花鳥和歌各十二首 より》